今昔百鬼拾遺 河童 - (EPUB全文下载)

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今昔百鬼拾遺 
河童

「何て品のないお話なの──」
 そうとも思わない。
 



は、別に何とも思わなかったのだけれど、



は顔を

めた。そう云う

い伝えなんですもの仕方がないですわと



は云う。
「私が創ったお話じゃなくってよ、佳奈さん」
「だってその、お、お」
 お

、と云う言葉が云えないのだと、美由紀は

くしてから気付いた。お尻だって手や足と変わらない身体の部位なのだから、口にも出来ないと云うのはどうか。
 紫色のお尻が

いんですってと裕美は云う。
「紫色? そんなその、お」
 橋本さんはオシリと口に出せないんですよと美由紀が云うと、裕美はあらイヤだと云い、佳奈はきゃあと云って顔を手で覆った。
「でもさ、じゃあお尻を怪我したりした時、橋本さんはどうやって説明するの?」
 そんな

は怪我しないわ美由紀さんと佳奈は云う。
「だって虫に刺されるかもしれないでしょ?」
「嫌だ、美由紀さん。そんな恥ずかしい処は虫なんかに刺されないでしょう。だってその、

き出しにしている訳でもないのに」
「剝き出しって──」
 佳奈さんの方が品がなくってよと裕美は笑った。
「剝き出しと云うのは、お仕置きされてる小さい

みたいな格好なの? そこを、蚊が狙っているのね。それは
可笑

しいわ」
 それは

かに可笑しいと思ったから、美由紀は声を出して笑った。それを見た裕美は、美由紀さんうちのお
祖母

様みたいな笑い方よと云った。
「お祖母様と云うか──

っちゃんね」
「ば?」
「私の祖母は

の人よ。とっても

っているわ。お父様も婆っちゃんと話す時はお訛りになるの」
「お訛りって」
 その云い方も可笑しい。
 どうもこの人達は特殊な言葉を使う。みんなそうだ。この環境下では尻を尻と言えないのも解らないでもない。
 美由紀はそう云う同調圧力には屈しない。いいや、屈しないのではなく、上手に出来ないのだ。何にでも御を付けたり、語尾を不必要に丁寧にしてみたり、一応やってはみるのだが、どうにもいけない。すぐに馬脚を

す。
 それこそ尻の据わりが悪いのだ。
 美由紀がそんなに言葉が違うのと

ねると、時時意味が通じませんのと裕美は云った。
「べえとか云いますの」
「それはうちのお
祖父

ちゃんも云う」
「そうですの? 美由紀さんは、

ですわよね?」


の漁師の孫。もう漁は

めちゃったけど」
「千葉にはいませんの?」
 ──
河童


 河童なんか
何処

にもいないだろう。
 いや、それを云ってしまっては身も

もないのか。
 しかし美由紀は、幼い頃からあまり河童の話を聞いた記憶がない。
 海入道の話なら聞いた気がするのだが。それは河童じゃないだろう。
「海に河童っているの?」
「さあ。川魚は海では

れないのですから、河童もいないのじゃなくて?」
「でも、佳奈さん。

なんかは、海から川を

って来るのじゃなくって? なら判りませんわ」
「それは逆じゃないかしら。遡るのじゃなくて海まで流れて行くことならあるかもしれませんわよ。河童の川流れとか云うのじゃなくって?」
 級友二人はころころと笑った。
 木漏れ陽が時に

しい。夏が近いからだろう。
 土曜の午後、美由紀達は校庭のベンチに腰を下ろして、
他愛

もない会話を交わしている。
 

くある光景ではあるのだろうが、話題にしているのは

そ世間の人が考えるだろう女学生らしいそれではない。
 どうやら世間の人人は、女学生と云う生き物は寄ると触るとお菓子の話だの恋の話だの、そう云う甘ったるい話ばかりしているものと考えている節があるのだが──実際そう云う話も多く耳にするのだけれど──でも、そんな訳はないのだ。極めて普通だと美由紀は思う。
 何をして普通と云うのか美由紀は知らないし、普通なんてないようにも思うのだけれども、でも学内が取り分け特殊だとは思わない。全寮制で半分隔離されたような状況なのだから、口の

に上るものごとは限定されているし、年代も近いから

ずと傾向も偏るのは事実だ。だから偏ったものではあるのだけれど、それだって流行のようなもので常に一定している訳ではない。
 女学生で

りにされては

わない。
 現に今も、お菓子の話も恋の話もしていない。
 美由紀達は

りに

って河童の話をしている。幾ら何でも女学生の話題の中心が河童と云うのはどうかと思うが。
 もしかしたら呼び方が違っているのじゃなくってと裕美は真顔になって云った。
「呼び方って──河童はカッパじゃないの?」
「お祖母様は河童のことをメドツとかメドチと呼ぶの。ツとチの間くらいの発音。何のことだか判らなかったからそう云う動物がいるのだと思っていたわ」
「それ、能く解らない名前。と云うか日本語なの?」
「岩手は日本だもの。日本語よ。でも牛もべココとか云うから、言葉は少し違うのですわ。雌牛はメッカ」
「べこは何となく判る。雌牛はほぼ外国語」
「ですから、私もそのメドチって何ですのと婆っちゃんにお

きしたんですわ。そしたら、フツザルだぁって」
「より不明」
「フチ、サル。淵、猿だったのですわ」
「淵って、あの、水の

まった淵のこと? 溜まったと云うか、あの川の深くなってるとこ?」
 そんな処に猿がいるのか。
「猿がいるのは ............

书籍插图:
书籍《今昔百鬼拾遺 河童》 - 插图1
书籍《今昔百鬼拾遺 河童》 - 插图2

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