明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 - (EPUB全文下载)

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　CONTENTS
ＣＵＴ１　今日、俺はスイカ畑にいる。記憶は消えている。
ＣＵＴ２　昨日、君はセクハラする。俺は逮捕される。
ＣＵＴ３　今日、セクシードリームは戦う。君はヒーローになる。
ＣＵＴ４　今日、俺はデートしている。正直、緊張している。
ＣＵＴ５　今日、俺は君に出会う。彼は復讐する。
ＣＵＴ６　明日、俺は死ぬ。君は生き返る。
ＣＵＴ７　明日、俺は死ぬ。君に会うために。
あとがき
　流れ出る血は止まらない。
　その日、俺の目の前で少女は死んだ。
　雨に打たれ、灰色に濡

れた体はついに動くことをあきらめる。
　世界の端っこで起きた小さな悲劇。引き寄せられるのは、日常に生きる人々。
　好奇に満ちた野次馬。垂れ下がる黒い雨。ぼやけて映ろう救急車にパトカーの影。
　雑音を消し飛ばすサイレンは、深海のような世界を勢いよく揺らした。
　やがて、降り続ける雨はすべてを押し流す。
　あとに残ったのは流し損ねた少女の血。
　それだけが、どこにも行けずに溜

まっている。
　日常に帰り損ねた俺は、足元に落ちていた手帳を拾い上げていた。
　ぐしゃぐしゃに潰

れたえんじ色の生徒手帳。
　写真は破れて見えないが、名前だけはかろうじて読みとれる。
　夢
前
光

。
　もう、どこにもいない少女の名前。
　光り輝

く夢を、未来を、摑

みとるはずだった眩

しい名前。
　だが、それはもう叶

わぬ未来。
　終わった物語が紡

がれることは永遠にない。
　だって、彼女は──。
「おまえの寿命の半分で」
　怯

えるように顔をあげる。
　暗い横断歩道の向こう側。
　そこにいたのは、黒いローブを纏

った不気味な人影。
　傘もささず、雨にも濡れず。
　ただ、枯れ木のように朽ちていた。
「おまえの寿命の半分で、彼女をたすけてやろうか」
　笑いをこらえるようにそいつは言った。
　だから俺は言ってやった。
「やってみろよ。くそ野郎」
　俺は、訊

いてみたかったんだ。
　世界から消えるその瞬
間

。彼女に、この残酷な世界がどう見えていたのかを。
「記憶がないんです」
「記憶がなくなるほど彼女と熱い夜を過ごしたの？　これだから不良くんは！」
「まじめに聞いてください。本当に記憶がないんです」
「もう、どうして先生を呼んでくれないの。これだから不良くんは」
「先生、冗談抜きで記憶がないんですって」
「まったく。なんて恐

い顔に産まれてきたの。これだから──」
「ぶちのめすぞコラ」
　月曜日。
　いや、違う。今日は火曜日。
　……らしい。俺の記憶では今週初めて学校に来たはずなんだけどな。
　ハッキリしているのはここが俺の通う高校の保健室であり、俺は養
護
教
諭

と喋

っているという点だけ。他の情報はとにかく曖
昧

だ。
「で？　いつから記憶がないのかな、秋
月

くん」
　養護教諭の日
雲

は、淀

みのない透きとおった声で気安く名前を呼んでくる。
　春だってのに、白衣の上に薄青色のマフラーを垂らした季節感の狂った女性教師。
　ただでさえ男子生徒の間で話題になるほどのスタイルと美
貌

なのに、ゆるんだ胸元や見せつけるように組まれた脚は、挑発しているようにしか見えない。もっとも、そういう風紀の乱れを好まない俺にはなんの価値もない話だ。だからさっきから無駄に胸を寄せたり、脚を組みなおすのはやめてください。男の子なんです。
　長すぎるその髪が窓から入る春風に揺れ、涼しい匂いが保健室に香る。いかんいかん、そんなことを考えている場合じゃない。それどころじゃないんだから。
「月曜の記憶がまるごとないんだ。日曜に眠りについて、目が覚めたら」
「目が覚めたら？」
「スイカ畑にいた」
「……うーん」
　我ながらハズレたことを口にしていると思う。だけど事実なんだからしょうがない。
　さらにおかしいのはここからだ。
「俺は首を傾

げながら家に帰ってシャワーを浴びたよ。思いっきり遅刻だったけれど開き直って学校にも来たさ。そしたらなぜか火曜だった」
「えーと、スイカのシャワーを浴びたとかそういう話？」
「そんな話してねぇよ」
　日曜の夜に眠りについて、スイカ畑で目が覚める。そして学校に登校したら、なぜか火曜日だった。なに言ってるかわからんと思うが、俺もなに言ってるのかよくわからん。
「うーん。寝すぎたんじゃないかな？　さすが校内一の不良くんだ」
「ありえねーだろ」
「じゃあお酒でも飲んでたんじゃない？　さすが校内一の不良くんだね」
「それもない」
「恐

い顔してるからだよ。さすが校内一の──」
「いい加減しばきたおすぞ」
　おちゃらけた教
諭

をめいっぱい睨

みつける。
　このアホアホな感じが生徒には人気らしいが、俺にはよくわからん。本当はこんなふざけた教師に相談なんてしたくなかったが、でかい病院に行って「いや、その、記憶がないんですよ。ふひひ」と言う勇気なんざ俺にはない。できればなにかの間違いだと思いたいんだ。
「うーん、でもねぇ。現実的に考えて月曜と日曜を勘違いしていたというのが有力なんじゃない？　現実的とは言えないけど」
「確かにな」
　言いたいことはわかる。だけどそれは絶対にない。
　だからこそ俺はこんなふざけた教師に相談なんざ持ちかけている。
「よく聞いてくれ。今朝母親から聞いた話な ............

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